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分身
東野圭吾
集英社文庫
1996年09月25日発行

<ポジティブ書評>

 作品はふたりの主人公である鞠子と双葉の話が交互に繰り返されることにより、進んでいく。すなわち、まず「鞠子の章」があって、次に「双葉の章」があって、という感じである。わりと伝統芸ともいえる手法だが、私はこの手法が非常に好きである。
 しかも、嬉しいことにはこの作品では「鞠子の章」も「双葉の章」も等価に面白い。まずい小説では、章によって極端に面白さが違って、読むだけでストレスがたまるのだけど、これぐらいバランス良く配置されていればスラスラと読み終えることができる。これは、プロの仕事だ。


<ネガティブ書評>

 どこを面白がれというのだろう。まずもって、ストーリーに特徴がなさすぎる。わざとやってるんじゃないかと思えるほど、予想の範囲内にとどまっている。おそらく、コンピュータに小説を書かせたら、こういう感じになるんだろうなあ。具体的に言えば、実は鞠子が母親に愛されていたとか、最後の研究所の炎上シーンだとか、そういうところ。
 ついでに、作品の解説では、えらくこの作品の科学技術描写を高評価してるけど、どこでそういうのを感じるんだろう。どう考えても中学生向き参考書レベルだと思うけど。

…5点




方舟さくら丸
安部公房
新潮文庫
1990年10月25日発行

<ポジティブ書評>

 微笑と冷笑と苦笑と。高尚な笑いでもなく、低俗な笑いでもなく。とりあえず、なんとなく笑ってしまうような小説だ。なんで自分が笑ってしまうのかよく分からないが、おそらく舞台と小道具の使い方の面白さだろうなあ。
 小さい頃、よく秘密基地をつくったけど、この本にでてくるような舞台があれば大喜びしただろう。なにしろ、基地の核になるのが強力吸引便器である。ああ、うれしや。


<ネガティブ書評>

 舐めるように読む。そういう本だろう。面白い部分部分がパッチワークされて、ひとつの小説になっている。ゆえに、細部を見れば面白いが、全体としては散漫な印象をうける。
 例えるなら、切手のコレクション。一枚取り出しても綺麗だし、全体を見ても、うならせるようなものがある。しかし、深い感動を覚えるものではない。そういう小説だ。

…8点




黒い家
貴志祐介
角川ホラー文庫
1998年12月10日発行

<ポジティブ書評>

 実際にありそうだなあ。そこが怖い。こんな事件がおこったらマスコミの書く記事まで浮かんでくるような、そういうリアリティがある。赤ん坊を電子レンジにいれたり、猫にアイロンをあてたりとか、そういう都市伝説に比べたら、保険金のために指を切り落とす人間なんて山ほどいそうだ。
 狂気の人間というのは、その存在だけで私なぞは震え上がるほど怖いのだが、できることなら本の中だけにしておきたい。


<ネガティブ書評>

 出だしは良い。『黒い家』というタイトルが示すように、一種ブラックボックスとなった空間から、染み出すように恐怖が溶け出てくる。しかし、物語が進むにつれて次第に恐怖の正体が表舞台にでてくる。こうなると、それに反比例するように恐怖が薄れてくる。得体のしれない怖さがなくなってしまう。
 そして、最後はドタバタ殺人ゲーム。そして、ハッピーエンド。なんだか、最後で馬鹿にされているような気がしないでもない。もうちょっと、なにかありませんか。

…6点




姑獲鳥の夏
京極夏彦
講談社文庫
1998年09月15日発行

<ポジティブ書評>

 懐古調ではあるが、登場人物たちは近代的自我の持ち主である。ミスマッチではなく、作風にうまく溶けこんでいる。読んでいて気持ち良い。「ミステリ」でも「推理小説」でもなく、「探偵小説」という感じだ。しかし、登場人物たちの思索が科学やら哲学のことであるあたりが、この小説ならではだろう。
 しかも、それらが単に作者の趣味でやっているのではなく、ちゃんと物語の伏線になっているのが好ましい。


<ネガティブ書評>

 これはトリックっていうんだろうか。私は許せない。クリスティ『アクロイド殺し』みたいな、清涼感のある一発ギャグ的掟破りではなくて、ただのルール違反じゃねえか。こんな、読者に分かりようの無いトリックは不可である。最大限誉めても「突拍子が無いトリック」としか言えない。普通ならば「思いつき」で断じられるようなものだ。
 非常にうがった読み方をすれば、これはこれで納得できるところもあるのだが、そんな後付けの意味付けをしてみても虚しいだけだ。

…5点




傭兵ピエール
佐藤賢一
集英社文庫
1999年02月25日発行

<ポジティブ書評>

 これを読まずに何を読もう。とりあえず、かっこいい人間を見たければ、まずこの本を読むべきである。豪胆で勇猛で人情味がある。なんともありきたりなキャラ立てかもしれないが、全てが破格である。人間の魅力で読ませる歴史小説は星の数ほどあれど、西洋仕立てだけあって、日本の歴史人物にはない魅力がある。「武士道とは家を誇る美学。騎士道とは自分を誇る美学」とはよく聞くけれど、やっぱり騎士道のほうが人間を浮き出すのに向いているみたいだ。
 そして、最後の修道院への襲撃。鳥肌がたち、身が震えるほどの快感を味わってほしい。


<ネガティブ書評>

不要。

…9点




玩具修理者
小林泰三
角川ホラー文庫
1999年04月10日発行

<ポジティブ書評>

 よくまとめられた短編小説。淡々とした文章で恐怖をかもしだしている。スプラッタ系の描写は怖いというより気味が悪い、と思うことが多いのだけど、この小説はちゃんと「怖い」と思わせてくれる。
 多少の寄り道はあるものの、オチに向かって組み上げられていく内容は冗長さを感じさせない。


<ネガティブ書評>

 ホラー崩れ。不気味というには直接すぎて、陰惨というにはあっさりすぎて。もっとじっとりせめられたほうが、私は好きである。
 やはりホラーの怖さは「実際にこんなことがあったらイヤだな」と思わせることが基本であって、あまりに「お話」すぎるストーリーでは面白さ半減である。

…4点




聖域
篠田節子
講談社
1994年04月20日発行

<ポジティブ書評>

 重と軽。硬と軟。絶妙なバランスである。登場人物たちはかなりネガティブな性格の持ち主ばかりなのに、どこか明るい。間の抜けた明るさではなく、悟ったような明るさなのである。思わず「愉快痛快」と言ってしまうような大胆な行動や考え方には好感触。
 ストーリーに引きこませる力は一級。一本の太い道があるので、読みつかれることがない小説である。


<ネガティブ書評>

 なんかB級のニオイがする。中途半端にオカルトなのが悪いのかもしれない。やっぱり、こういうのはもっと突き詰めてもらわないと、鼻につくばかりだ。
 ストーリーの太い道というのも、悪くいえば一本調子。おや、と思ってページをめくりなおすことがほとんどない。ラストも引っかかり無く終わってしまって、「あれ、これだけ?」てなもんだ。ゴールデンタイムのホームドラマか? 読んだ後二分で反芻が終わるような作品。

…6点




星を継ぐもの
ジェイムズ・P・ホーガン
創元SF文庫
1980年05月23日発行

<ポジティブ書評>

 SFであり、ミステリである。少々古めかしい感じもするが、発行年から考えたら妥当なところだろう。レゴブロックみたいにストーリーが秩序だって組み上げられて行く様は、読んでいて爽快。物語が展開するたびに、新鮮な空気が頭を刺激する。
 わりとSF色が強くて頭を使うので、同類の作品を続けて読むのはちょっと遠慮したいが、たまに読む分には歓迎したい小説である。


<ネガティブ書評>

 よく整理されている。いや、整理されすぎている。無駄がないのが気持ちいいのは確かだ。雑然とした部屋よりも、綺麗な部屋のほうが好きだ。だけど、あんまり綺麗すぎる部屋は、生活観がなくて、印象に残りにくくて、よいことばかりではないのである。
 この小説も同じ。通常、キーとなる舞台や人物が記憶のとっかかりになるのだけれど、内容が綺麗すぎて印象に残らない。あまりにも正道を歩みすぎてるんじゃないかと思うのである。「小説は頭で読むもんじゃない! 心で読むんだよ!」とは私のセリフだが、この本は心じゃ読めないなあ。

…6点




星界の紋章
森岡浩之
ハヤカワ文庫
1996年04月16日発行

<ポジティブ書評>

 明朗快活。なんだか嬉しくなっちゃうね、これは。読んでいて、「ちょっとひと休みしようかな」なんて気にもならず、一気に読んでしまえる軽快な文章。しかも、電車でもトイレでも風呂でも、どこで読んでも面白い。
 内容も二転三転と飽きさせず、読者の記憶力の程度がよく分かっているらしく、混乱をきたすこともない。エンターテイメントはかくあるべし、という小説だ。


<ネガティブ書評>

 明朗快活。お気楽すぎるんじゃないですか、これは。会話文ばかりで全然頭を使わないし、SFを期待して読む読者はさぞかしがっかりするだろうなあ。設定が凝っているのは良いけれど、「皇帝陛下」という単語に「スピュネージュ・エルミタ」なんて振り仮名をふっても、読みにくいだけじゃないの。むしろ、作者の自己満足ぽくでイヤになる。
 ハヤカワ文庫でだすより、電撃文庫とかのほうが良かったんじゃないのかな。

…7点




美しい星
三島由紀夫
新潮文庫
1967年10月30日発行

<ポジティブ書評>

 主役は「自称」宇宙人一家。うん、これだけ聞いて読みたくなった人は、きっと私と気が合う人だろう。内容も期待にそってくれて、登場人物は「電波な人たち」ばかり。しかも、一見しても壊れていることを感じさせないから、これは本物だろう。
 特に、ラスト付近の宇宙問答は圧巻で、「地球人は滅びるべきか否か」という疑問が真剣かつおもしろ味をもって語られている。そして、感動のラストシーン。これは、泣ける。いや、別の意味とかじゃなくて。


<ネガティブ書評>

 うーん。どう考えても「三島文学」には似合わないよなあ。三島好きな私としては、初めて読んだ三島作品がこの本じゃなかったことを、神に感謝するばかりだ。もし、これをはじめに読んでたら、他の作品もずっと色メガネで見ることになっただろう。
 内容と文体はちぐはぐな印象をうけるし、笑い飛ばせるような内容が文体のせいで、下手に深刻ぶった「火曜サスペンス劇場」みたくなってしまって、ちょっと興ざめするかも。

…6点





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