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宇宙消失 <ポジティブ書評>
サイコロをふったとき、我々はひとつの目がでるのを確認することができる。同時に、他の目がでるという状況は存在しなかったことになる。この本では、全てのサイコロの目がでた状況が同時に(確率的に)存在すると考えられている。つまり、サイコロをふるまではひとつだった現在が、サイコロをふることによって六つの未来に分岐するのである。さらに、主人公はその六つの未来から、最も自分が望んでいたものを選択することができる。
とりたてておかしいというわけではないのだが、どうもストーリーに乗りきれない。最大の原因は、主人公が「元警官」として犯罪組織にたちむかう存在でありながら、宇宙規模で起こっている事象を解明する(ほぼ)全能者であることが、うまく溶け合っていないことだろう。一応は、ストーリー前半部分では「元警官」、後半部分では「(ほぼ)全能者」としてすみわけがなされているのだけれど、後半部分はどっちつかずでどうもイライラする。せっかくアイデアが受け入れやすいように整理されているのに、肝心のストーリーが整理されていないために、どうも煩雑な印象を受けるのだ。 …6点 |
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アンドリューNDR114 <ポジティブ書評>
簡単に言えば、人間になろうとしたロボットのはなし。といっても、童話じみたものではなく、いったい人間とロボットの違いは何かということを主眼に、ロボットが人間としての権利を勝ちとっていくさまを時を追って描いている。
残念なのは、アンドリューが「特別な」ロボットということである。初期のロボットであるために能力の不確定要素が強く、芸術家や哲学者としての才能も持っている。だから、ロボット三原則による思考の規制もかなり柔軟に回避してしまうし、自己主張も強い。むろん、そういうロボットが誕生する可能性がないわけではないけれども、特例はあくまで特例にすぎず、現実にはもっと規格化したロボットしか誕生しないであろうと想像してしまう。 …7点 |
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ソングマスター <ポジティブ書評>
人の声に歌を聴き、歌からその人の人生を知るという能力を持った少年アンセットの話。アンセットは、感情の奔流を歌で増幅することができ、またあらゆる感情から身を切り離すことができる。つまりは超能力者であるのだけれど、それを歌に置き換えたことで人間同士の交感が深く描写されている。
むろん、気になる点がないわけではない。例えば、アンセットは美声を妨げる声変わりをしないように去勢のような処置をされているのだが、このあたりなどはアンセットが「道具」扱いされているように感じられて、とても嫌な感じだ。あるいは、一対一の愛に執心したり、人類愛に執心したりと、ひとりの人間が一定した考えかたをもたない点なども、人間描写の効果を弱めているように思う。まあ、あえて言えば、という程度のことであるが。 …8点 |
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今はもういないあたしへ… <ポジティブ書評>
解説から引用。「『ネプチューン』は、昭和五十六年の作品です。うわー、昔、だ。当時は私、まだ大学生なんぞやっておりました。」
この本には二編の短編が収録されている。どちらもすごいが、特に一編目の『ネプチューン』がすごい。485円という価格がとてつもなく高く感じられるぐらいすごい。嗚呼、これほどまでにすごい小説をよくぞ書いてくれたものだ。 (あとから追記)上の水棲人類についての設定は間違い。カンブリア紀の原始生物がタイムマシンを通るうちに人間に進化したそうです。と掲示板で教えてもらいました。 …3点 |
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地球最後の日 <ポジティブ書評>
なんだか、SFを読んでいるというよりも、昔読んだ学研の科学記事を読んでいるような感じで、ほっとする。それもそのはずで、この小説は1933年に書かれたらしく、あっと驚くような新理論や技術がでてくるわけでもなく、世界観もごくまっとうなため、頭を激しくひねる必要はない。だからといって、決して物足りないという類の本ではなく、きちんと押さえるべきところは押さえていて、ハラハラする場面もきちんと用意されてある。非常に読みやすい本であるということだ。
確かに「地球最後の日」を迎える小説ではあるものの、その主眼は地球破滅の日に地球から脱出しようという科学者たちにおかれていて、片手落ちであるように思う。地球に残された人々の描写がぞんざいなのだ。きっと、いまどきのSF作家がこんな小説を書いたら、綿密に地球最後の日がどうなるかということをシミュレートしてくれて、微細にわたった迫真のシーンをちりばめてくれると思う。それが、この本ではやけにあっさりしていて、個人的には末法思想のはびこる地表の様子がもっと読みたかった。 …6点 |
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シティ・オヴ・グラス <ポジティブ書評>
透明な文章である。本を読んでいるというより、音楽を聴いているというのがふさわしいような、文字を意識させない文章である。これは、オースターの書く他の作品にも共通する点であり、それに魅力を感じてしまえば、何冊も彼の作品を買いこむことになる。ストーリーやアイデアで読ませる本でなく(もちろんストーリーも秀逸なのだが)、文章それ自体に魅力がある本なのだ。どことなく現実感がない、夢を見ているような小説であり、つかみどころがなく、それでいてエッセンスが自然に頭にはいってくる。エレガンスな女性が読むと似合いそうな、そんな本である。
読むと物足りない気分になる。語られない部分が多すぎるのだ。 …7点 |
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闇の天使 <ポジティブ書評>
女暗殺者と凄腕の元テロリストとの対決を描いた本である。特に深い背景はない。冷戦が終了して以来、スパイやテロリストの登場する小説がめっきりつまらなくなったという話をよく聞くが、やはり現実の動乱がないと、読者をひきつけることは難しいのだろう。
文庫の最後にある解説(服部真澄による)を読むと、やはりあまり誉めたくはないのだろうな、ということをうかがわせる。解説なんてものは、常人が到底「いいなあ」なんて思えないところを、何かと理屈をこねて美点にしているもので、この本もやはりそういう傾向がそれなりに見られるのだが、行間から失望がにじみ出ているのが分かる。 …4点 |
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ぼっけえ、きょうてえ <ポジティブ書評>
著者は岩井志麻子である。なんだか、名前を聞いただけで怖い本を書きそうだが、実際この本はホラー小説である。とはいえ、実のところそれほど怖い本ではない。内容は「ホラー」というより「怪談」なので、語り聞かされたらこれは怖いだろうが、字を追っているだけでは怖くもなんともない。そう、思っていた。
内容は特に良くもなく、悪くもなく。驚くほど意外な展開はない。やはり、特徴的なのはその文章の形式であろう。女郎の寝物語として、岡山弁で語るという形式だ。「ぼっけえ、きょうてえ」というタイトルも岡山弁で「とても怖い」という意味であるらしい。らしいのだが、私は確かめていない。はたして、岡山のかたがこのような語り口をするのかどうかは知らないが、あまり聞きなれない(読みなれない)文体であることは確かだ。閨物語という言葉から想像するとはほど遠い語り口である。「じゃけん」で文章を締められると、どうも違う物語を想像してしまう。単に耳慣れていないだけであるのかもしれないが、作家の力量次第でもっと流麗に仕上げられるのではないかと思った。 …5点 |
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図書館長の休暇 <ポジティブ書評>
殺人事件がおこって、それを素人探偵の主人公が解決するということだから、これはミステリと思ってよいのだろう。しかし、正直言って事件の行方はまるきり気にならない。むしろ、主人公の家族関係とか、その愛蔵劇、恋人との間に生じる確執などを読むほうがずっと面白い。また、それが正しい読み方であろう。
くだらないことだが、正直いって登場人物の名前が格好悪い。ひょっとしたら米国では普通の名前かもしれないし、これを読んでいる人で同じ名前を持つ人がいたら気を悪くしないで欲しいのだが(いないと思うが)、正直いってシリアスな話に似つかわしい名前だとは思わない。主人公の名前は「ポティート」 恋人は「ウェンディ」 義父が「ボブ・ドン」 別にとりたてて悪いというわけではないのだけれど、アメリカンコメディに出演したほうが似合うような気がしないでもない。 …6点 |
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エイジ <ポジティブ書評> 読んで損はない本であることは確かだ。しかし、誉め言葉がうまくでてこない。非常に「正統派」な小説であり、久しぶりに「文芸作品」を読んでいるな、という感触を味わうことができた。最近刊行された本であるし、全く違和感なく最近の風俗をとり入れているのにも関わらず、懐かしさを憶える文章である。それほど特化した趣味を持たない人にぜひ読んで欲しい本だ。
面白いのは確かである。すんなりとストーリーの中に入りこめ、様々なエピソードのゆくえを楽しみにしつつ、最後まで飽きさせることがない。だけど、あんまり長持ちしそうにないな、とそんなふうに思う。思わず本に線をひきたくなるようなフレーズは多くない。一か月後、二か月後にこの本の内容を思い返せるかいえば、どうも自信がない。文章も内容も、滑らかに頭の中を通りすぎて行く。 …6点 |